初めて本を出した。
わたしの長年の夢の一つであった、本の出版。しかも、わたしの長年好きな落語が題材である。感慨はとても深い。
そもそも落語が好きになったきっかけは、一冊の本。佐藤多佳子さんの『しゃべれどもしゃべれども』という小説だ。人間関係やコミュニケーションに悩みがある人たちが、落語を通して成長していく話である。帯の「読後いい人になってる率100%」という文句は、なかなかなインパクトがあった。
その一冊と出会ったきっかけは、高校の現代文の授業だ。読書感想文を書く課題で、課題図書の一つだったのが、『しゃべれどもしゃべれども』だったのである。何冊かあった中でどうしてこの一冊にしたか理由は覚えていないけれど、わたしがこの本を選んだことで人生が大きく変わっていったと思うと、どこに人生の分岐点があるか分からない。
人生を大きく動かすことになった一冊との出会い。一生の趣味となり、今では仕事でも関わり、さらに今回本を出すに至るまでとなる落語と出会うことができた、という点はたびたび語ってきた。
だが実は、今思えば、文章を書くことの面白さを覚えたのもここだった。
課題であった読書感想文を提出したあと、良かった文章として、先生が授業内でわたしの感想文を紹介してくださったのだ。そのときに言われた、「文章うまいね」というとてもシンプルな褒め言葉が、当時、小説の登場人物のように人間関係やコミュニケーションに悩んでいたわたしに、力強く響いた。文章という形でだったら、もしかしたら自分をうまく表現できるのかもしれない、と初めて思った瞬間だった。
それから、何かに駆られたように、自分の思っていることを言語化してみる、ということが日課になっていった。誰にも読んでもらうでもなく、短編小説のような文章を書いてみたりもした。それは日記という身近なところから、ノートに自分の考えをメモしたり、パソコンとじっくり向き合い、原稿に起こすというところまで。
文章を書くことは、苦しい。今伝えたいことを表す最適な言葉が見つからないと、吐き気に似た気持ち悪さを感じる。自分の内側を掘って掘って、痛いところも見つめなくてはならないときもある。時に、文章を書きながらなぜだか泣けてきてしまうこともあった。
でも書き終えたときに、一つ心がすっきりした感覚になるのも知っている。だから、苦しくても書く。いや、苦しいから、苦しいときこそ書くのかもしれない。
今は、有難いことに仕事として文章を書く仕事もいただくようになった。特に、書評などの本にまつわる執筆の仕事は多い。BookBangの「南沢奈央の読書日記」は、連載が始まって、早6年。現時点で175本のエッセイを発信してきた。サンデー毎日では「遠回りの読書」というコーナーで、書評をリレー連載している。
『しゃべれどもしゃべれども』という一冊で、文章を書くことと落語の面白さを知り、それが一つの形になったのが『今日も寄席に行きたくなって』である。帰着した、という言葉が正しいか分からないが、なんだか戻ってきたような、一つの実を結んだような、そんな気持ちだ。
『今日も寄席に行きたくなって』が、高校生のときのわたしのように、誰かのなにかの一歩を動かすような本になったら、それ以上のよろこびはない。
2023/11/8
奈央さん、こんばんは。
初書籍発売、おめでとうございます。❤️
奈央さんの落語愛が、妬けるほど伝わってきました。❤️❤️
読書日記も書籍化して欲しいなぁ~❤️❤️❤️